賃貸のフローリングに傷をつけても、すぐに補修ペンやワックス、パテなどで隠そうとしないでください。
まず傷の状態を写真に残し、契約内容や床材、傷の深さを確認したうえで、自分で触ってよい範囲かどうかを判断します。
この記事では、退去費用がいくらになるかではなく、「今この傷にどう対応すればいいか」という行動の順番を整理します。
賃貸・引っ越しトラブルナビゲーターの佐藤真紀です。
フローリングに傷をつけた瞬間、多くの人がまず考えるのは「退去費用を取られたくない」ということだと思います。
その気持ちから、補修ペンやフローリング用のワックス、パテなどを検索して、すぐに手を動かしたくなるかもしれません。
ただ、私はその行動を最初にすることをおすすめしません。
賃貸のフローリングは、あなたの持ち物ではなく、貸主から借りている設備の一部です。
自分の判断で状態を変えてよいかどうかは、傷を直す前に必ず確認すべきことです。
この記事では、
記録する → 傷の状態を確認する → 契約を確認する → 必要なら管理会社に相談する → 自分で補修してよいか判断する
という順番で、今つけてしまった傷にどう向き合えばいいかを整理していきます。
STEP1|何もする前に、傷をそのまま写真で残す
結論からいうと、補修や掃除を始める前に、まず傷をありのままの状態で記録してください。
補修してから写真を撮っても、それは「補修後の状態の記録」にしかなりません。
傷そのものの状態、大きさ、深さが分かる記録が必要です。
具体的には、次のようなものを残しておくと、あとで管理会社に説明するときや、契約内容を確認するときに役立ちます。
- 傷全体が分かる引きの写真
- 傷の部分をアップにした写真
- 部屋のどの位置にあるかが分かる写真(壁や窓との位置関係)
- 大きさが分かるように、定規やメジャーを添えた写真
- 傷ができた日、気づいた日
- 傷ができた原因(家具を動かした、物を落とした、など分かる範囲で)
- 水濡れや変色が関係していそうなら、その状況も記録する
あわせて、入居時に撮った部屋の写真や、入居時チェックシートが手元にあるか確認しておきましょう。
同じ場所にもともと傷や凹みがなかったかを確認できると、あとの判断材料になります。
国土交通省の資料でも、入退去時の物件の状態について、写真などで記録を残しておくことの重要性が触れられています。
「あとで確認できる状態」を作っておくことが、この段階での一番の目的です。
補修してしまってから「元の傷がどんな状態だったか分からない」となってしまうと、あとから正確な判断ができなくなります。
STEP2|傷の状態を4つに分けて確認する
写真を撮ったら、次に傷の状態を確認します。
ここで重要なのは、「浅い傷だから自分で直していい」と決めつけないことです。
これはあくまで、次のステップに進むための状態の整理だと考えてください。
浅い擦り傷
表面に細い線や、こすれたような跡が見える程度のもの。
床材の表面が削れているわけではなく、光の当たり方で目立って見えることもあります。
凹み
表面が沈んでいるが、大きく欠けたり削れたりはしていない状態。
家具を落とした、重いものを引きずったなどが原因になりやすい傷です。
えぐれ・欠け
表面材が削れている、あるいは下地が見えている状態。
床材そのものの構造に影響が出ている可能性があります。
広範囲・変形・水濡れを伴う傷
複数枚の床材にまたがっている、床が浮いている、膨れている、剥がれている、水濡れの跡があるといった状態。
このタイプは、見た目以上に内部が傷んでいる可能性があります。
どの分類に近いかを確認したら、その情報を持ったまま次のステップに進みます。
「浅い擦り傷だから自分でやっていい」という結論に、この時点では飛びつかないでください。
自分で判断してよいかどうかは、次の契約確認とあわせて決めることになります。
STEP3|賃貸借契約書の「修繕」に関する記載を確認する
次に確認したいのが、賃貸借契約書の内容です。
「賃貸だから、多少の傷なら自分で直しても構わないだろう」と考える方は少なくありませんが、実際には契約によって借主が単独でできる範囲が定められています。
国土交通省が示している賃貸住宅標準契約書のモデルでは、借主が行える修繕は契約上定められた範囲に限られる考え方が採られており、増改築や改造、模様替えなどについては貸主の書面による承諾を必要とする構成になっています。
標準契約書そのものに法的な強制力があるわけではなく、実際の契約内容は物件ごとに異なります。
ただし、この構成からも分かるとおり、「賃貸だから自由に補修してよい」とは言えないということは、ひとつの共通認識として押さえておく必要があります。
契約書を確認する際は、次のような項目に注目してください。
- 「修繕」「原状回復」に関する条項があるか
- 「軽微な修繕は借主が行うことができる」といった記載があるか
- DIYやリフォームに関する取り決め、禁止・制限事項があるか
- 補修や模様替えをする際に、事前の承諾や届け出が必要とされているか
なお、いわゆる「DIY可能物件」であっても、改修できる範囲や、退去時にどう扱うかについて、あらかじめ貸主・借主間で合意しておく仕組みが前提とされています。
つまりDIY可能物件であっても、「好きにしてよい」という意味ではなく、合意した範囲内で行うという前提があるということです。
契約書を読んでも判断がつかない場合、無理に自分で解釈しようとせず、次のステップで管理会社に確認することをおすすめします。
STEP4|管理会社へ相談したほうがいい傷の状態を確認する
すべての傷について、いきなり管理会社へ連絡する必要はありません。
ただし、次のような状態に当てはまる場合は、自分で補修方法を探す前に、管理会社へ相談したほうがよい状態だと考えてください。
- えぐれ・欠けがある
- 床材が浮いている、剥がれている
- 水濡れ、膨れ、変色がある
- 複数枚、あるいは広い範囲に傷が及んでいる
- 下地まで傷んでいるように見える
- 床暖房が入っている床である
- 床材の種類がそもそも分からない
- 補修に研磨、接着、充填、着色などの作業が必要そうに見える
- 業者による施工が必要になりそうな規模である
これらに一つでも当てはまる場合、自分の判断で補修材を使うことは避けたほうが安全です。
特に水濡れが関係している場合は注意が必要です。
見た目には小さな傷や染みに見えても、内部で床材の劣化や被害が進んでいる可能性があります。
このケースでは、「隠す」ことより先に「報告する」ことを優先してください。
放置している間に被害が広がると、対応そのものが後手に回ってしまいます。
連絡する際は、STEP1で残した写真と、傷ができた経緯を伝えられるようにしておくと、話がスムーズに進みます。
補修ペンで隠す前に、考えておきたいこと
退去費用が心配で、補修ペンやワックス、フィラーなどを使って傷を目立たなくしたい、という気持ちは自然なものだと思います。
ただ、この記事で最初にお伝えしたいのは、「補修ペンで隠す」という行動を、最初の選択肢にしないでほしいということです。
理由はいくつかあります。
- 市販の補修ペンやワックスは、床材の色味やツヤと完全に一致するとは限らず、かえって傷の跡が目立ってしまうことがある
- 床の表面加工(コーティングなど)との相性によっては、変色やムラが新たに生じることがある
- 補修跡そのものが、元の傷とは別の「状態の変化」として扱われる可能性がある
- 補修によって、もともとの傷がどんな状態だったのか分からなくなってしまう
- あとで管理会社側や業者が正式に補修する際、市販の補修材が塗られていることで、かえって作業がしづらくなる場合がある
つまり、「傷を目立たなくすれば、退去費用の心配がなくなる」という発想そのものに、リスクがあるということです。
見た目を整えることと、状態を正しく報告・判断することは、まったく別の話だと考えてください。
どうしても不安な場合は、STEP1の記録をしっかり残したうえで、次のステップに進んでから補修方法を検討しても遅くはありません。
STEP5|自分で補修するかどうかを判断する
ここまでの情報が揃ったら、最後に「自分で補修してよいか」を判断します。
目安として、次の4つの条件をすべて確認できたときに、はじめてDIY補修を検討できると考えてください。
① 契約上、問題がないと確認できている
賃貸借契約書の修繕に関する条項を確認し、軽微な補修が借主の範囲で認められていることが分かっている状態です。
② 管理会社などから、問題ないという確認が取れている、または自己対応できる範囲が明確になっている
契約書だけで判断がつかない場合は、管理会社へ確認し、対応してよい範囲について具体的な回答を得ている状態です。
③ 床材の種類と、それに合う補修方法が分かっている
床材が何であるかが分からないまま補修材を使うと、変色や劣化を招く可能性があります。
④ 補修に失敗して、状態を悪化させる可能性が低いと判断できる
浅い擦り傷程度で、市販の補修材の使用方法や注意点を理解できている状態です。
この4つのうち、ひとつでも「分からない」「確認できていない」ものがある場合は、補修方法を検索する前に、管理会社へ確認することを優先してください。
逆に言えば、この4条件すべてがクリアになって初めて、「どんな補修方法があるか」を調べる段階に進めます。
補修方法そのものについては、床材の種類や傷の深さによって適した方法が異なるため、あらためて具体的な補修手順を扱う記事で確認することをおすすめします。
傷の原因によって、退去時の負担は変わる
同じ「床の傷」であっても、その原因によって、退去時に誰がどこまで負担するかの考え方は変わってきます。
たとえば家具を置いたことによるへこみのように、通常の生活の範囲で生じたと考えられるものと、引っ越し作業で家具を引きずってできた引っかき傷のように、注意していれば防げたと考えられるものとでは、扱いが異なります。
国土交通省のガイドラインでも、家具の設置によるへこみや設置跡は通常の使用の範囲とされる例として、引っ越し作業で生じた引っかき傷は借主の負担とされやすい例として、それぞれ挙げられています。
ただし、実際にどちらに該当するかは、傷の状態や契約内容、物件の管理方針によっても変わるため、この記事だけで一律に判断することはできません。
退去時にどのくらいの費用負担になりそうか、経過年数の考え方も含めて詳しく知りたい場合は、賃貸の退去費用に関する記事であらためて確認してください。
この記事では、「補修してよいかどうか」の判断に絞ってお伝えしています。
突発的な事故によるものなら、火災保険も確認する
家具を倒してしまった、物を落として床を傷つけてしまったなど、「不測かつ突発的な事故」に近い状況であれば、加入している火災保険で補償される可能性があります。
一方で、キャスターによる日常的な擦れや、飲みこぼしを放置したことによる劣化のように、日々の不注意が積み重なったものは、保険の対象外とされることが一般的です。
補償の対象になるかどうかは、契約している保険の内容や事故の状況によって異なります。
まずはSTEP1で残した記録をもとに事故の状況を整理し、管理会社への連絡とあわせて、契約している保険会社にも確認してみることをおすすめします。
「保険が使えるはず」と自分で決めつけず、約款や保険会社への確認を通して判断することが大切です。
傷をこれ以上広げないためにできること
管理会社への連絡や判断を待っている間も、日常生活は続きます。
その間に傷が広がったり、新たな傷が増えたりしないよう、次のような点だけ意識しておくとよいでしょう。
- 傷のある場所を、家具や物で無理に隠そうとしない(状態確認の妨げになることがあります)
- 水濡れが関係している場合は、これ以上水分が触れないようにする
- 傷の部分を頻繁に踏んだり、こすったりしないようにする
- 新しい傷ができた場合は、その都度追加で記録しておく
大がかりな対策をする必要はありません。
今ある状態を、これ以上悪化させないようにする、という意識だけで十分です。
佐藤の整理|「隠す」より先に「残す」
フローリングに傷をつけると、「退去費用を取られる前に自分で直しておこう」と考えたくなる気持ちは、よく分かります。
ただ、私は最初に補修道具を探すことはおすすめしません。
まず傷を写真に残し、浅い擦り傷なのか、凹みなのか、えぐれているのか、広範囲なのかを確認します。
そのうえで契約書の修繕ルールを確認し、必要であれば管理会社に相談する。
自分で補修してよいことが確認できて、はじめて補修方法を考える。
この順番を飛ばしてしまうと、良かれと思ってやったことが、あとから「勝手に状態を変えた」と受け取られてしまうこともあります。
賃貸では、「見えなくすること」よりも、「勝手に状態を変えてよいのかを先に判断すること」が大切だと、私は考えています。
焦って動く前に、まずは今の状態を正確に残す。
それが、あとで一番あなた自身を助けてくれる行動になります。
まとめ|補修方法を探すのは、一番最後でいい
賃貸のフローリングに傷をつけてしまったとき、最初にすべきことは補修ではありません。
まず傷の状態をそのまま写真に残し、浅い擦り傷、凹み、えぐれ・欠け、広範囲・水濡れのどれに近いかを確認します。
次に賃貸借契約書の修繕に関する記載を確認し、えぐれや水濡れなど気になる状態があれば、管理会社への相談を優先してください。
「補修ペンで隠す」という選択肢は、契約・管理側の確認・床材・悪化リスクの4条件がすべて確認できたあと、最後に検討するものです。
退去時の費用負担や具体的な補修方法については、それぞれ別のテーマとしてあらためて確認することをおすすめします。
今この瞬間にできる一番大切な行動は、傷を隠すことではなく、今の状態を正確に記録しておくことです。
よくある質問
賃貸のフローリングに傷をつけたら、すぐ補修ペンで直してもいいですか?
おすすめしません。補修ペンで色を合わせても、床材の質感や表面加工との相性によっては、かえって目立ってしまったり、あとで正式な補修がしづらくなったりすることがあります。まず傷の状態を写真に残し、契約内容や管理会社に確認してから判断してください。
小さな擦り傷でも、管理会社に連絡したほうがいいですか?
浅い擦り傷であれば、必ずしもすぐに連絡が必要というわけではありません。ただし、床材の種類が分からない、契約書を確認しても判断がつかないという場合は、自分で補修する前に管理会社へ確認しておくと安心です。えぐれや水濡れを伴う傷は、状態確認を優先してください。
傷を自分で直してしまったあとに、何か問題になることはありますか?
契約上、借主が単独で行える範囲を超えた補修だった場合、あとから状態を変えたこと自体が問題になる可能性があります。また、補修跡によって元の傷の状態が分からなくなり、退去時の話し合いがしづらくなることもあります。判断に迷う場合は、補修前に管理会社へ相談しておくことをおすすめします。


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