賃貸の壁に画鋲の穴があっても、それだけで退去費用が発生すると決まるわけではありません。
国土交通省のガイドラインでは、クロス張りの壁・天井にできた画鋲やピンの穴で、下地ボードの張替えが不要な程度のものは、通常損耗の例として示されています。
ただし、実際にどう扱われるかは別の話です。
何を刺したのか、穴の大きさ・深さ・数、壁材、契約内容などを確認しないと、自分のケースがガイドラインの例に当てはまるかどうかは判断できません。
この記事では、「画鋲だから大丈夫」「賃貸だから怖い」という決めつけではなく、穴を見て、契約を見て、補修前に何を確認すべきかという順番で整理します。
結論|「画鋲だからセーフ/アウト」ではなく穴の状態を確認する
先に結論を書きます。
大切なのは「画鋲かどうか」という名称ではなく、下地ボードの張替えが必要になる程度の穴かどうかです。
国交省のガイドラインも、画鋲やピンという名前で線引きをしているわけではありません。
そのため、この記事は「画鋲なら安全」で終わらせず、次の順番で確認していきます。
まず何を刺したかを確認します。
次に穴の大きさ・深さ・数・場所を確認します。
そのうえで、契約書の特約を確認します。
すでに補修してしまった場合は、その状態から考えます。
最後に、自分で埋めていいかどうかを判断します。
この順番を守ることが、退去時に慌てないための一番の近道です。
STEP1|まず何を刺したのか確認する
穴を見つけたら、最初に確認したいのは「何を刺したか」です。
考えられるものとしては、次のようなものがあります。
- 画鋲
- 細いピン
- くぎ
- ネジ・ビス
- ボードアンカーなど
ここで注意したいのは、名称だけで負担が決まるわけではないという点です。
国交省のガイドラインが例として区別しているのは、「画鋲という言葉かどうか」ではなく、下地ボードの張替えが必要になる程度の穴かどうかです。
つまり、同じ「画鋲」という言葉でも、刺し方や回数によって扱いは変わり得ます。
逆に、ネジやくぎであっても、程度によって扱いが変わる可能性はあります。
だからこそ、名前で安心したり、名前で不安になったりする前に、次のステップで穴そのものを確認する必要があります。
STEP2|穴の状態を確認する
次に見るのは、穴そのものの状態です。
チェックしたいポイントは次の通りです。
- 大きさ:針先程度か、穴が広がっているか
- 深さ:クロス表面だけか、下地まで入っているように見えるか
- 数:1〜数個なのか、複数箇所に集中しているのか
- 場所・素材:クロス壁なのか、木部・建具など別の素材なのか
- 周囲の状態:クロスが破れている、めくれている、穴同士がつながっていないか
ここで一つ、はっきりさせておきたいことがあります。
国交省のガイドラインは、「何個までなら通常損耗」という本数の基準は示していません。
そのため、「数個ならセーフ」「何十個ならアウト」といった独自の本数ラインで判断するのは適切ではありません。
数が多いかどうかよりも、下地ボードにまで影響が及んでいるかどうかのほうが重要な視点になります。
自分だけで判断が難しいと感じた場合は、次のステップで写真を残したうえで、契約や管理会社の確認に進むのが安全です。
STEP3|何も補修する前に写真を残す
穴を見つけたとき、多くの人がまずやってしまいがちなのが、市販の穴埋め材で急いで隠すことです。
しかし、補修する前に記録を残しておくことが重要です。
残しておきたい記録は次のようなものです。
- 壁全体が分かる写真
- 穴の位置が分かる写真
- 穴のアップ写真
- 複数ある場合は分布が分かる写真
- 大きさが分かる写真(定規やものさしと並べるとより分かりやすくなります)
- 何を刺したか(覚えている範囲でメモしておく)
あわせて、入居時に渡された写真やチェックシートが手元にあれば、それも確認しておきましょう。
入居時からあった傷や穴なのか、入居後にできたものなのかを区別できる材料になります。
「退去費用が怖いから、とにかく埋めて隠す」ことを最初の行動にしないことが、後々の説明のしやすさにつながります。
国交省ガイドラインでは画鋲・ピン穴をどう考えている?
ここで、あらためて国土交通省のガイドラインの位置づけを確認しておきます。
このガイドラインは、原状回復をめぐるトラブルを防ぐために、国が公表している考え方の整理です。
法律そのものではありませんが、多くの管理会社や大家が敷金精算の目安として参照しているため、実務上の影響力は大きいとされています。
ガイドラインでは、賃借人が通常の住まい方をしていても生じるものと、賃借人の使い方によって生じるものとを分けて考えています。
前者、つまり通常損耗の例として挙げられているものの一つが、クロス張りの壁・天井にできた画鋲・ピン等の穴で、下地ボードの張替えが不要な程度のものです。
一方、重量物を掛けるためのくぎ・ネジ穴で、下地ボードの張替えが必要な程度のものは、借主側の負担例として整理されています。
改正民法でも、通常損耗や経年変化については、原則として借主が原状回復義務を負わないことが示されています。
ただし、これは「画鋲というものが常に無害」という意味ではなく、あくまで例示です。
自分の穴がこの例に当てはまるかどうかは、STEP2で確認した状態をもとに考える必要があります。
画鋲とネジ・くぎは何が違う?
画鋲・ピンとネジ・くぎでは、一般的に穴の深さや太さが異なります。
ガイドラインの例示でも、画鋲・ピンの穴は下地ボードの張替えが不要な程度のものが通常損耗側、ネジ・くぎの穴は下地ボードの張替えが必要な程度のものが借主負担側として挙げられています。
つまり違いを生んでいるのは「道具の名前」ではなく、「下地ボードにまで影響が及ぶ程度かどうか」です。
同じ画鋲であっても、何度も同じ場所を刺して穴が広がった場合や、重いものを支えるために使った場合は、ネジ・くぎの例に近い状態になっている可能性もあります。
道具の名前で安心せず、STEP2で確認した穴の深さ・大きさをもとに考えることが大切です。
壁以外に開けた穴は同じとは限らない
もう一つ注意したいのが、穴を開けた場所や素材です。
国交省ガイドラインの画鋲・ピン穴の例示は、壁・天井(クロス張りなど)についてのものです。
木部や建具、襖など、クロス壁とは異なる素材に開けた穴まで、同じ例示がそのまま当てはまるとは一律には判断できません。
素材によって修繕方法や費用の考え方は異なる可能性があるため、「画鋲だから、どこに刺しても同じ扱い」とは考えないほうが安全です。
壁以外の場所に穴がある場合は、次のSTEP4で契約内容を確認したうえで、必要であれば管理会社に相談することをおすすめします。
STEP4|契約書・特約を確認する
ガイドラインの内容を理解していても、実際の負担は賃貸借契約書の記載が優先されることがあります。
契約書やその別紙である特約事項には、壁への穴あけを制限する内容が盛り込まれている場合があります。
確認しておきたい項目は次の通りです。
- 壁への穴あけ禁止に関する記載があるか
- ネジ・くぎの使用を禁止する記載があるか
- 原状回復に関する条項の内容
- 特約事項として別途定められている内容があるか
国土交通省も、退去時のトラブルを防ぐためには、契約内容を十分に確認しておくことの重要性を案内しています。
ここで一つ注意しておきたいのは、「契約書に書いてあること」がすべて、そのまま有効になるとは限らないという点です。
国交省のQ&Aでは、借主に通常以上の負担を課すような特約について、その必要性や合理性、借主がその負担を正しく認識し合意していたかどうかなどが判断要素になり得るという考え方が示されています。
つまり、特約の存在と、その特約が実際にどこまで有効とされるかは、別に考える必要があります。
判断に迷う場合は、契約書のコピーを手元に用意したうえで、管理会社に直接確認するのが確実です。
すでに穴を補修してしまった場合
ここまで読んで、「もう自分で埋めてしまった」という人もいると思います。
その場合、まず大切なのは、これ以上重ねて補修しないことです。
補修跡が気になって、上から何度も塗り重ねたり、別の素材を足したりすると、かえって状態が分かりにくくなることがあります。
すでに補修してしまった場合に確認しておきたいのは、次の点です。
- 現在の状態を写真に残しておく
- 何を使って補修したか、分かる範囲でメモしておく
- クロスに変色・膨れ・破れなどが起きていないか確認する
- 判断が難しい場合は、早めに管理会社へ確認しておく
「補修跡が見えなくなるまでさらに塗る」という方向に進めるのは避けたほうが安全です。
なお、補修したこと自体で必ず費用が発生するとも、補修すれば問題がなくなるとも一律には言えません。
現在の壁の状態と、契約書の内容の両方を確認したうえで、必要であれば管理会社に相談する、という流れが基本になります。
退去前に自分で穴を埋めてもいい?
「退去前に、自分で穴を埋めてしまいたい」と考える人も多いはずです。
結論としては、まず契約と素材を確認することが先です。
自分で補修してよいかどうかを考えるときに確認したいのは、次の点です。
- クロス壁かどうか
- STEP2で確認した穴の状態が把握できているか
- 下地まで傷んでいるように見えないか
- 契約上、自分で補修して問題ないか(禁止や指定業者の記載がないか)
- 検討している補修方法が、その壁材に合っているか
これらを確認したうえで、契約上も素材の面でも問題がないと判断できる場合に限り、自分での補修を検討する、という順番になります。
なお、具体的な穴の埋め方や、どのような道具・手順で補修するかについては、この記事の範囲を超えるため、壁の穴補修そのものを扱った記事をあわせて確認することをおすすめします。
退去時の費用負担は契約・状態・原因から確認する
「結局、費用はいくらかかるのか」が気になる人も多いと思います。
ここまで見てきた通り、費用が発生するかどうかは、穴の状態・素材・契約内容・原因によって変わるものであり、一律の金額をあらかじめ決めておくことはできません。
経過年数によって借主の負担割合の考え方が変わってくる場合もありますが、これは通常損耗の範囲かどうかとは別の論点です。
そもそも通常損耗であれば、原則として借主の原状回復義務の対象外というのが民法の基本的な考え方です。
一方で、借主側の負担と判断される損傷については、修繕範囲や経過年数をどう考えるかという、また別の整理が必要になります。
この点については、退去費用そのものをテーマにした記事で、あらためて詳しく確認することをおすすめします。
今後、新しい穴を増やさないために
すでに穴を開けてしまった人にとって重要なのは、新しい道具の選び方よりも、これまで見てきた確認の順番です。
そのうえで、今後さらに壁に何かを掲示する予定がある場合は、次の点だけ意識しておくと安心です。
これから新たに物を掲示する場合は、契約上使用できる固定方法をあらかじめ確認してください。
粘着材などの製品も、壁紙との相性によって、剥がすときの変色や跡が残ることがあります。
「穴を開けない方法だから、必ず安全」とは限らない、という点は覚えておくとよいでしょう。
佐藤の整理|「画鋲だった」だけで判断しない
壁に小さな穴を見つけると、「画鋲だから大丈夫」と考える人もいれば、「賃貸だから修繕費を取られる」と不安になる人もいます。
ただ、私はまず、何を刺したのか、どの程度の穴なのか、どこに開いているのかを整理することをおすすめします。
国土交通省のガイドラインには、クロス張りの壁・天井にできた画鋲やピンの穴で、下地ボードの張替えが不要な程度のものを通常損耗とする例があります。
一方で、ネジやくぎによる深い穴、別素材に開けた穴、契約上の制限がある場合まで、同じとは限りません。
退去費用が心配だからと先に穴を埋めるのではなく、まず記録して、穴と契約を確認する。
補修方法を考えるのは、そのあとで十分です。
よくある質問
画鋲の穴があると、それだけで退去費用を請求されますか?
いいえ、画鋲の穴があるというだけで、必ず費用が発生するわけではありません。
国交省のガイドラインでは、下地ボードの張替えが不要な程度の画鋲・ピン穴は通常損耗の例として示されています。
ただし、実際の判断は穴の状態や契約内容によって変わるため、まずSTEP1〜STEP4の順で確認することをおすすめします。
画鋲とネジでは、扱いは必ず違いますか?
道具の名前そのものより、下地ボードにまで影響する程度の穴かどうかが重要とされています。
一般的にはネジやくぎのほうが穴が深くなりやすい傾向がありますが、画鋲であっても穴が広がっていたり、重ねて刺していたりする場合は、状態によって扱いが変わる可能性があります。
すでに自分で穴を補修してしまいました。どうすればいいですか?
まず、これ以上重ねて補修しないことが大切です。
現在の状態を写真に残し、何を使って補修したかをメモしたうえで、判断に迷う場合は早めに管理会社へ相談することをおすすめします。
まとめ|何を刺した→穴の状態→契約→補修判断の順で確認する
賃貸の壁にできた画鋲の穴は、「画鋲だから大丈夫」「賃貸だから怖い」というひと言では判断できません。
まず何を刺したのかを確認し、次に穴の大きさ・深さ・数・場所といった状態を確認します。
そのうえで、契約書や特約事項を確認し、すでに補修してしまった場合は現在の状態から考えます。
自分で埋めてよいかどうかは、契約と素材の両方を確認できてから判断するのが安全です。
この順番を守ることが、退去時に慌てず、必要な確認を漏らさないための一番の近道になります。


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